── 任意整理では足りない、自己破産では失いすぎる、その間にある制度
前の記事で、任意整理の限界について書いた。元本が減らないこと、返済が手取りの20%を超えると完走が難しいこと、途中で破綻すれば二重コストが発生すること。
では、任意整理では返しきれない額の借金を抱えていて、しかし自己破産で家を失うわけにはいかない──そういう人はどうすればいいのか。
その答えが「個人再生」だ。
債務整理の3つの手続きの中で最も知名度が低く、仕組みも複雑だが、特定の条件に当てはまる人にとっては最も合理的な選択肢になる。特に住宅ローンを抱えている人にとっては、これ以外に家を守る方法がない。
個人再生の仕組み:元本ごと圧縮する
任意整理と個人再生の決定的な違いは、元本が減るかどうかだ。
任意整理は将来利息をカットするだけで、元本には手をつけない。借金300万円は、利息がゼロになっても300万円のまま残る。
個人再生は、裁判所の認可を得て借金総額を原則1/5に圧縮する。300万円なら60万円に。500万円なら100万円に。ただし最低弁済額は100万円と定められているため、借金が500万円以下の場合は100万円が下限になる。
圧縮後の金額を3年(最長5年)の分割で返済する。返済を完了すれば、残りの債務は免除される。
具体的なケースで比較してみる。
借金400万円の場合:
- 任意整理:元本400万円をそのまま返済。月6.7万円×60回(5年)
- 個人再生:100万円に圧縮。月2.8万円×36回(3年)
月の返済額は半分以下、返済総額は4分の1。この差は大きい。
住宅ローン特則:家を残せる唯一の制度
個人再生の最大の武器は「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」だ。
これを使うと、住宅ローンはこれまで通り支払い続けながら、それ以外の借金だけを圧縮できる。自己破産では住宅は処分対象になるが、個人再生なら守れる。
たとえば住宅ローン残債2,000万円+カードローン400万円の人が個人再生を申し立てた場合、住宅ローンはそのまま月々の返済を続け、カードローン400万円が100万円に圧縮される。家に住み続けながら、カードの借金を大幅に減らせる。
任意整理でも「住宅ローンを除外して他だけ整理する」ことはできる。しかし任意整理では元本が減らない。400万円は400万円のまま残る。住宅ローンの返済と並行して月6.7万円を5年間払い続けるのは、多くの家庭にとって現実的ではない。
個人再生なら月2.8万円×3年。 住宅ローンの返済と両立できる可能性がぐっと高くなる。
個人再生の費用と期間
費用は3つの手続きの中で最も高い。
- 弁護士費用: 30万〜60万円
- 裁判所への予納金: 15万〜25万円(再生委員が選任される場合)
- 合計: 約50万〜80万円
住宅ローン特則を使う場合、手続きが複雑になるため弁護士費用は高めになる傾向がある。
手続き期間は申立てから認可まで6ヶ月〜1年。その後の返済期間が3〜5年。トータルで4〜6年を見ておく必要がある。
費用が高いと感じるかもしれないが、任意整理と同様、弁護士に依頼した時点で債権者への返済がストップする。その間に弁護士費用を積み立てる流れは変わらない。そして圧縮される借金の額を考えれば、費用対効果は十分に合う。400万円が100万円になるなら、弁護士費用60万円を払っても240万円の得だ。
個人再生が向いている人
以下の条件に複数当てはまるなら、個人再生が最適な手続きになる可能性が高い。
1. 住宅ローンがあり、家を手放したくない。
これが個人再生を選ぶ最大の理由になる。自己破産では住宅は原則として処分対象。家族がいる場合、住居の問題は借金以上に深刻だ。
2. 借金総額が大きい(300万円以上が目安)。
任意整理で元本をそのまま返すのが厳しい額。個人再生なら1/5に圧縮されるため、返済計画が現実的になる。
3. 安定した収入がある。
個人再生は「再生計画」を裁判所に提出し、その通りに返済することが前提。計画通り払えることを証明するために、安定収入は必須条件だ。申立て前に「履行テスト」(毎月一定額を積み立てて返済能力を示すトレーニング)が求められる場合もある。
4. 免責不許可事由がある。
ギャンブルや浪費が借金の原因の場合、自己破産では免責が認められないリスクがある(裁量免責で認められるケースも多いが)。個人再生には免責不許可事由の概念がないため、借金の原因を問われない。
個人再生が向いていない人
逆に、以下の場合は個人再生を選ぶメリットが薄い。
賃貸住まいで、守る不動産がない。
住宅ローン特則を使う必要がなければ、個人再生の最大のメリットが活きない。借金をゼロにできる自己破産の方が、再建のスピードは圧倒的に早い。
収入が不安定。
フリーランスや歩合制の仕事で月収の変動が大きい場合、再生計画の履行が難しいと裁判所に判断されるリスクがある。
借金総額が200万円以下。
圧縮しても最低弁済額は100万円。200万円の借金を100万円にするために弁護士費用50万円を払うのは、費用対効果が悪い。この規模なら任意整理の方が合理的だ。
任意整理・個人再生・自己破産の選び方
ここまでの記事で3つの手続きを個別に見てきた。改めて、選択の判断基準を整理しておく。
借金が年収の1/3以内で、月の返済が手取りの20%に収まる → 任意整理。最も軽く、最もダメージが小さい。
借金が大きいが、住宅ローンがあり家を残したい。安定収入もある → 個人再生。元本を1/5に圧縮し、住宅ローンは維持。
借金が大きく、返済の見通しが立たない。守る不動産もない → 自己破産。全額免除で完全にリセット。
自分がどれに該当するか分からない → 専門家に聞く。弁護士は「あなたの場合はこれが最適です」と判断してくれる。自分で悩む必要はない。
この記事は、管理人・一ノ宮(Webクリエイター歴20年以上、自己破産経験者)が個人の体験と情報整理に基づいて書いています。個人再生の要件や最低弁済額は借金総額や保有資産によって異なります。具体的な判断は、必ず弁護士にご相談ください。